(a) 欧文文字の特徴
文字の幅(大きさ) :プロポーショナル字送り :プロポーショナル字間 :カーニング文字の揃え :ベースライン文字の種類 :1フォントにつき通常5種類のアルファベットを含む
欧文文字については、「和文組版」の中で4つの特徴を説明しました。ここでつけ加えるもう1つの特徴は、文字の形状の種類です。通常、1つの欧文フォントには、文字の形状が異なる5種類のアルファベットが含まれています。
これは、欧文の表記法に必要とされる最低限の文字の種類と考えられます。イタリック体は、作品名や題名、文中の強調部分、外来語の語句、ラテン語系の略語、医学用語、数学の定義などを表すときに使います。スモールキャップスは、見出し、柱、図版の説明、略語などに使います。
(b) スペーシング
行中のスペースはemという大きさを基準にして空けたり詰めたりします。emとは欧文文字の全角のことで、フォントのポイントサイズと同じ長さの辺を持つ正方形です。例えばフォントサイズが12ポイントの文字では、1emとは辺の長さが12ポイントの正方形に相当します。1em分空けるということは、行中に12ポイント角のスペースを入れることです。この他に en という単位もあり、これは em の半分の大きさ、つまり半角のことです。
行中には3種類のスペースがあります。語間、字間、およびインデントによって生じるスペースです。それぞれに関して、以下のようなルールがあります。
<1>語間(Word spacing)
語間のスペース量は1emの3分の1を基本とします。語間のスペース量は行末を揃えるために増減されるので、1行ごとに異なります。しかし、スペースが極端に広くても狭くても見苦しいので、1emの3分の1を基本にスペース量の上限と下限の値を決めておきます。
<2>字間(Letter spacing)
欧文組版では、見出しなどを除いて字と字の間にスペースを入れることは原則としてありません。行分割の際に、語間のスペース量の増減や語の分割では調整しきれない場合にのみ、字間のスペース量を1行中で一律に増やしたり減らしたりすることがあります。ただ、欧文文字の字間は空いていると見苦しいので、なるべく空けないことが望ましいです。
<3>インデント(Indent)
インデントとは、行の初めまたは終わりにスペースを置き、行頭または行末が引っ込んでいるように見せる方法です。日本語では「字下げ」といいます。インデントのスペース量は、1em(全角)または1en(半角)の倍数で指定します。
インデントのスタイルには次の2種類があります。
- 段落の第1行の行頭インデント(Paragraph style)
- 第1行を除く全ての行のインデント(Flush−and−hang style)
前者は段落がどこから始まっているかを分かりやすくするために使います。ただし、章や節の最初の段落ではインデントしないというルールがあります。章や節の最初の段落は、見出しによってそこが最初であることが明らかなので、インデントする必要がありません。つまり、段落の第1行のインデントは前の段落との区切りを示すために使うものです。
後者は、一連の文章の第1行だけを左端に揃え、残りの行の頭をすべてインデントするという方法です。参考文献、脚注、索引、箇条書きなどに使われるスタイルです。
(c) 行分割
<1>行の揃え方
欧文の行分割は、行の揃え方によって方法が変わります。以下の2つが欧文でよく使われる行の揃え方です。
- 両端揃え(Justification)
- 左揃え(右ラグ組み:Ragged right)
両端揃えでは、行頭と行末の両方を揃えます。左揃えでは、行頭のみを揃えて行末はでこぼこでも構わないとします。
<2>両端揃えの場合の行分割
和文組版でいう行頭禁則や行末禁則に相当するものは欧文組版にはありません。なぜなら、欧文の行分割点は語間にあるからです。和文組版で行頭禁止になっている終わりかっこを例にとると、欧文組版では終わりかっことその前の文字との間はベタ組みで、ここは語間には相当しません。したがって、分割点とは見なされないので、禁則対象とする必要もないわけです。始めかっことその後の文字、句点とその前の文字の場合も同じことです。
分割点が原則として語間にあるので、行分割の際には語と語の間を分割すれば問題はありません。とはいっても語を途中で分割することは間違いではありませんが、なるべく避けた方がよいでしょう。語の途中が行末にかかったときは、語間のスペース量を変えることによって行末を揃える必要があります。
ところが、場合によっては分割点をずらそうとすると語間が空きすぎたり詰まりすぎたりして見苦しくなることがあります。この場合は、やむを得ず語の途中を分割点とすることになります。
語の分割点は、あらかじめ決めておく必要があります。処理の際には分割点を登録した辞書を用意し、それにしたがって語の分割を行います。語は基本的に音節で分割することになっていますが、例外が多いため、分割点を決めるためのルールが必要です。オックスフォードルールとシカゴルールでは、語の分割点を決定する 指針となる規則をそれぞれに定めています。
語を分割する際には、行末にハイフンを置いて語が次の行に続いていることを示します。そのため、語の分割のことをハイフネーションと呼びます。ハイフネーションに関してはオックスフォードとシカゴに共通するルールで以下のようなものがあります。
- 3行以上続けてハイフネーションしてはならない
- 右ページの最終行でハイフネーションを行ってはならない
前者は、ハイフネーションの連続を制限したものです。語の分割は、許されてはいるものの、やはり読みやすさを損ないます。ハイフネーションされた行末が続くのは見苦しいものです。そのため、連続してよいのは2行までとするのが一般的です。
後者は、分割された語の配置を制限したものです。これについては「組版の概念」のところで説明しました。ページの最後の行末がハイフネーションされると、分割された語の残りの部分は次のページに送られます。左ページの最終行がハイフネーションされた場合は、分割された語が同じ見開きの中に配置されますが、右ページの場合は1つの語が1枚の紙の表と裏に分割されることになります。分割された語が、見開きでは1つの視野に入るのに対し、表裏では1つの視野に入らないため、読みにくくなります。そのため、右ページの最終行のハイフネーションは禁止されています。ただ、このルールは必ず守られているわけではないようです。シカゴルールのマニュアル自体にさえ、右ページ最終行でハイフネーションしている箇所があります。
<3>左揃えの場合の行分割
左揃えの行分割では、行末を揃えず、行の右側が不揃いでも構わないとします。ただし、行が極端に短くならないように行長の下限値を決めて置きます。左揃えでは語間のスペース量を増減する必要もありません。どの行も等しい語間になります。
通常、左揃え(ラグ組み)をするのは、ハイフネーションを許可しないときです。しかし、行長が短い場合や長い語がある場合には、左揃えでもハイフネーションが必要になります。
(d) 行分割以外の分割
和文組版のルールは行分割に関するものが主ですが、欧文組版のルールは、段の終わりやページの終わりで生じる分割に関するものが主です。欧文の場合、分割点が語間にあるので、分割点が字間にある和文と違い、行分割の際に不適切な分割が起こることはあまりありません。
しかし、行分割のレベルで適切であっても、段やページに分割すると不適切である場合があります。どのような分割が不適切なのかを定めたもので、オックスフォードとシカゴに共通に見られるルールについて説明します。
以下のものが不適切な分割として禁止されています。
- 孤立行(widow,orphan)
- 段落の最終行に1語または何文字かだけがはみ出すこと
- 右ページの最終行がハイフンで終わること
- 節を分割する空白行が、ページまたは段の、初めに置かれること
- 脚注が本文の参照箇所と同じページから始まっていないこと
不適切な分割として代表的なものは、孤立行です。孤立行には、widowと orphanの2種類があります。
- widow:段落の最終行が次のページまたは段にはみ出すこと
- orphan:段落の最初の1行がページまたは段の最後に取り残されること
段落の第1行だけでなく、見出しが孤立する場合も orphan と同じと考えられます。widowとorphanを禁止するのは、1行だけ離れていると、その行がどこに所属するのかが分かりにくくなるからです。孤立行は本文だけでなく、抜粋や索引の中でも避けるべきものです。
段落の最終行が極端に短い場合も、その部分が段落からはみ出して孤立していると考えられます。段落の最終行に1語または何文字かしかない場合がこれにあたります。
右ページの最終行をハイフネーションするのが不適切であることは、「組版の概念」の条件5、および先程のハイフネーションのところで説明しました。語の中の分割点が適切であっても、分割した語を別々の見開きに配置するのは不適切です。
節を分割する空白行をページや段の先頭に置くのは不適切とされています。これは、空白行と上の余白との区別がつきにくく、節と節の区切りとしての役割が分かりにくくなるためだと思われます。オックスフォードとシカゴは共にこれを不適切だとしていますが、処理の方法は両者で全く異なります。
オックスフォードではこの空白行を削除するとしていますが、シカゴでは空白行の前に2行以上の本文をつけるとしています。前者は、節の分割点がページ分割と重なったため区切りの空白行を省略するということ、後者は、飽くまで空白行を区切りとして尊重し、目立たせるということです。
本文とそれを補う脚注の配置については、「組版の概念」の条件6のところで説明しました。次ページに渡る脚注でも、開始点は必ず本文と同じページになければなりません。このルールも、細かいところはオックスフォードとシカゴで異なります。オックスフォードでは、次ページに最低3行は送る必要があるとしているのに対し、シカゴでは、同ページに最低2行を置く必要があるとしています。