1.2.2. DSSSLとSGMLの関係

 DSSSLがSGML文書を印刷し、表示することを目標としている規格であることは、すでに、述べてきた通りです。SGMLは「ISO 8879 : 1986」として以前から国際標準規格化されていたのに、なぜ、DSSSLは国際標準規格化するのにSGMLに遅れること10年に及ぶ歳月が必要だったのでしょうか。
 DSSSLとSGMLの関係を考えるために、SGMLの歴史を振り返って見ます。
 歴史的には、電子原稿は、文書を特定の方法でフォーマットするための、制御コードまたはマクロを含んでいました。これを「特定符号化」といいます。
 歴史的には、電子原稿は、文書を特定の方法でフォーマットするための、制御コードまたはマクロを含んでいました。これを「特定符号化」といいます。この特定符号化に対して、1960年代に始まった「共通符号化」では「記述的タグ」を用います。例えば、“改行 16point ゴシック体”とは記述せず、その意味を表す<見出し>というタグを用いて記述することにしました。このように「共通符号化」の中心的概念は、文書の情報内容から、その内容のフォーマット(体裁)を分離することにありました。
 1970年代初期には共通符号化の概念はさらに明確になっていきました。すなわち、文書構造の表現法を標準化するためのSGMLの開発です。
 SGMLは、文書をモデル化する言語として開発されました。特定モデルや定義済みのタグ集合を規定するための規格にならなかったところに開発者たちの高い理想を見ることができます。こうして、文書をクラスとしてモデル化する際の汎用的な規則として、SGMLは成り立ちました。
 1986年にISOでSGMLが制定された時、次のような功績を伴いました。

  1. 文書の本質的な内容とその構造が区別された。
  2. 変換が可能になった。
  3. 文書体裁の指定が可能になった。

 これらの功績を現実のものとするためには、(2)と(3)を可能という範疇から実現という範疇へと動かす必要がありました。しかし、この(2)と(3)の国際標準規格化のための検討が容易に進まなかったことから、その制定までにSGMLから遅れること10年という結果になってしまいました。現在では、SGMLの有用性を危ぶむ声も聞かれるようになりましたが、(2)と(3)は、現在、DSSSLに結実しています。本書では、特に(3)の応用処理を中心に、わかりやすい解説を展開していきます。
 さて、構造の変換方法と文書体裁の指定方法を制定するだけで、なぜ、10年という歳月を必要としたのでしょうか。それを簡潔に言うとすれば、「難しかった」の一言ですみます。DSSSLを制定した人々は、当代随一の専門家たちでした。今もなお、活躍し続けている彼らの見識と活力をもってしても10年という歳月が必要だったということが言えると思います。彼らは、さらに遠い未来を見ようとしていました。

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