1.1. SGML誕生のいきさつ

今から30 年以上も前、1960 年代のことです。当時の電算原稿には制御コードの類い――“見出し” といった指示ではなく、“11 番のフォーマット” のような指示――が埋め込まれていました()これをspecific codingと呼びます)。これはもちろん、どのようなフォーマットで出力するかを指定するためです。制御コードは出力機器によって異なります。つまり、原稿をこちらからあちらへと持っていく、ただそれだけのことに、いちいち随分な手間が必要でした。
 こんなやり方はクールじゃない。はたしてそう考えたかどうかまではわかりませんが、ともかくも、1967 年、GCA 構成委員会(Graphic Communications Association Composition Committee)のチェアマンであったWilliam Tunnicliffe は、カナダ政府の印刷事務に関する会合で、文書からフォーマット情報を分離せよ、と提唱しました。これが、制御コードにかわって一般的なタグを利用するgeneric coding への流れの始まりです。次いで、ニューヨークの書籍デザイナー、Stanley Rice が、パラメータ化された編集用構造タグの共通カタログに関するアイディアを提案しました。SGML の初期の概念はこうして誕生したわけです。
 さらに、1969 年にはIBM のCharles Goldfarb ら[2]によってGML(Generalized Markup Language)が考案・開発されました。名前から推測できるように、GML はSGML の直接的な祖先にあたります[2]。そのGML のコンセプトの中でも特に大きな特徴は、形式的に定義可能なドキュメント型(SGML におけるDTD)の導入にあります。これは、入れ子になっている文書要素の構造を明確にし、タグ付け(マークアップ)を文書の論理構造に適切に反映する役割を果たします。それまではシンプルなタグ一覧表が用いられていましたが、マークアップを文書構造に反映するには不十分だったのです。Charles Goldfarb はその後も文書構造に関する研究を続け、さらなるコンセプトを築きました。それらは1978 年にANSI に設置された委員会の活動などを経て、1980年にSGML ドラフト・バージョン1 として結実するにいたったのです。

表1.1 SGML概略年表
出来事
1967 William Tunnicliffe(GCA)、文書本文とフォーマット情報の分離を提案。
ニューヨークの書籍デザイナーStanly Rice、編集用タグの共通カタログについてのアイデアを提案。これらの流れを受け、GCA ディレクターNorman Scharpf がGCA 構成委員会にgeneric coding プロジェクトを設立。
1969 IBM のCharles Goldfarb ら、GML(Generalized Markup Language)を考案・開発。
1978 ANSI にCharles Card(UNIVAC)を座長とする「文書処理用コンピュータ言語委員会」設立。Goldfarb がこれに参加、GML を基にした標準言語プロジェクトを率いる。
1980 最初のSGML ワーキング・ドラフトが完成、発行される。
1983 GCA、ワーキング・ドラフト第6版を工業規格(GCA 101-1983)として推奨。米国IRS(Internal Revenue Service:米国国税庁)および米国国防総省がこれを採用。
1984 GCA、これまでのフィードバックを受けてさらに3つのワーキング・ドラフトを発行。同年、プロジェクトはISO の認可を受けて再編。ISO/IECJTC1/SC18/WG8 国際会議が開始される。ANSI の委員会はX3V1.8 という名称で継続。
1985 国際規格原案発行。
1986 ISO 8879:1986 として承認される。

[2] Chalres Goldfarb、Edward Mosher、Raymond Lorie の3人
[3]「SGML という名称の本当の由来は、Goldfarb、Mosher、Lorie の3人がつくったStandard という意味の頭文字である」というジョークが語り継がれています。

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