まえがき

 1986 年にSGML がISO の規格として承認されてから、すでに15 年以上の歳月が経ちました。CALS(Continuous Acquisition and Life-cycle Support)の推進によるSGMLの普及が見込まれましたが、日本国内、特に民間では望まれたほどには普及しなかったようです。
 しかし、近年になってインターネットを利用した企業間システム(いわゆるEC)が構築されるようになり、企業間におけるデータ交換の必要性が高まります。円滑なデータ交換のためには標準化されたデータ形式が不可欠といえます。このデータ形式として、今日における事実上の標準の地位を獲得したのがSGML をよりシンプルに扱いやすくしたXML です。
 XML は単なるデータ形式に過ぎないため、データ交換の際の相互データ変換や、文書化のためにフォーマットする手法やツールが別途必要になります。この手法には独自のものから標準化されたものまで様々ですが、知識の共有や流通コンポーネントの再利用性の観点から、一般に標準化された手法が有利であると考えられます。この標準化された手法が、World Wide Web コンソーシアムの定めるXSL であり、ISO が定める国際標準規格のDSSSL であります。
 知名度の点ではDSSSL はXSL に及ばないのが現状ですが、そもそもXSL はDSSSLを基に開発された規格であること、XSL がXML に特化したものであるのに対し、DSSSL はSGML とXML の双方に利用可能であること、また、組版機能の柔軟さや、完全なプログラミング言語を備えているという点で、XSL よりも強力であるという事実があります。
 これまでDSSSL はあまり注目されることはありませんでしたが、XML が広範な分野で利用されるようになった現在、あらためてDSSSL の有用性が見直され、真の評価が問われる時期が来たのではないかと思います。本書はそのDSSSL について、文書フォーマッタとしての利用という側面に焦点をあてた解説書です。
 本書を通じてより多くの方がDSSSL に興味を持たれ、また、SGML/XML データの有効活用法を見い出されることを願っています。

本書の対象読者

 本書ははじめてDSSSL に触れる方を対象とした入門書です。DSSSL 規格の性格上、SGML またはXML についての知識を有していることが前提となります。それらについての知識が不足している場合でも読み進められるよう配慮していますが、必要に応じて適宜各種参考書籍などをご覧になることをおすすめします。また、一部コンピュータ・プログラミングの要素が必要となる部分があります。プログラミングの経験がない方でも理解できるよう、注意を払ってはいますが、アルゴリズムなどの基礎分野を本書でカバーすることは不可能なため、こちらも参考書籍などをご覧になることをおすすめします。

本書の構成

 本書は、第1 章・第2 章でDSSSL の基礎概念について解説し、その後の章でスタイルシートの具体的な記述について、易から難へと進めています。特に、初学者が早い段階で実習に取り組みやすいよう、規格書ではsimple-page-sequence(第3 章)に続けて記述されているpage-sequence やcolumn-set-sequence をあえて最後(第6 章)に配置してあります。また、付録としてフロー・オブジェクト・クラスの簡易一覧を記載しているほか、Scheme に慣れ親しんでいる方のために式言語との相違点を列挙してあります。

本書における表記法

 本書では、本文中に以下の印刷上の表記法を用いています。

Constant Width

 式、データ型、手続き、変数、キーワード、ファイルの内容をあらわします。

Constant Width Italic

 手続きの引数など、状況に応じてユーザが適切な値に置き換えるべきテキストをあらわします。

[argument]

argumentがオプションであることをあらわします。

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