4.3. 書体の変更

 一般的に、見出しは本文よりも大きなサイズの文字を使い、必要に応じてゴシック系の書体などを用いることが多いのではないかと思います(見ての通り本書もそのようになっています)。また、私たちはそのような体裁を持つ行が見出し文であることを経験的に知っています。
 すなわち、文字サイズ・書体の適切な変更は、文書に視覚的なメリハリを与えるにはもってこいの方法であるといえます。以下に、書体指定に関する特質について説明を挙げていきます。なお、書体指定は paragraph フロー・オブジェクト・クラスに限らず、様々なフロー・オブジェクト・クラスで使用できます。

font-family-name: string

 書体ファミリー名を文字列で指定します。すべての書体ファミリーを許容する(書体ファミリーの選択を DSSSL プロセッサに任せる)場合は、論理定数 #f を指定します。書体ファミリー名として有効な値については、使用する DSSSL プロセッサに依存します。利用可能な書体ファミリーの例として、ISO/IEC 10180[1]で必須とされている3つの書体ファミリー(iso-serifiso-sanserif および iso-monospace)などがあります。

書体名と書体ファミリー名
DTP やデザインに関わりのある方はさておくとして、そうでない方は「書体名」ではなく「書体ファミリー名」であることを不思議に思われるかもしれません。
書体ファミリーというのは元々欧文における概念からきたものです。基本となるデザインが最初にあり、これを元に太字や細字、あるいは斜体などのデザインが作成されます。書体ファミリーとは、これらのデザインをひとまとめにした系列のことをいいます。一方、書体名とは基本デザインや派生デザインのそれぞれに付けられた名前のことを指します。
和文書体では主にウェイト別のデザインを持つ書体ファミリーが製作されていますが、ソフトウェアによっては過去の慣習から書体名を書体ファミリーとして扱う場合も少なくないようです。当社の DSSSLprint においても、和文明朝書体の一つであるリュウミンを指定する際に、書体ファミリー名として “Ryumin” ではなく “Ryumin Light” と指定する仕様になっています。

font-weight: symbol

 書体のウェイト(太さ)をシンボルで指定します。全てのウェイトを許容する場合は、論理定数 #f を指定します。ウェイトは、medium を基準として、light(細い)、bold(太い)があり、lightbold についてはさらにいくつかの段階があります(図4.3)。なお、これらのシンボルのいずれが有効であるかは、DSSSL プロセッサや font-family-name: で指定する書体ファミリーに依存します。


図4.3 font-weight:指定と書体デザインの変化(欧文書体)


図4.4 font-weight:指定と書体デザインの変化(和文書体)

font-posture: symbol

書体の傾きをシンボルで指定します。全ての傾きを許容する場合は論理定数 #f を指定します。指定可能なシンボルは次の通りです。

not-applicable 適用しない
upright 直立体
oblique オブリーク
back-slanted-oblique 逆向きのオブリーク
italic イタリック
back-slanted-italic 逆向きのイタリック
italic と oblique
italic(イタリック)とoblique(オブリーク)は、大雑把にいってしまえばどちらも斜体ということになります。一般的にはイタリックの方が馴染みがあると思いますし、おそらく斜体=イタリックという認識があるのではないでしょうか。
書体の歴史を紐解いていくと、イタリックという書体は16世紀頃にアルド・マヌーツィオ[a]が手書き文字を再現しようと、ペトラルカ[b]の筆跡をもとに考案・製作したものであることがわかります。現在のイタリックは、この「イタリック体」に倣って最初から斜体としてデザインされたものをいいます。これに対してもう一方のオブリークは、機械的に斜体へと変形させたものをいいます。

font-structure: symbol

 書体の修飾(文字修飾)をシンボルで指定します。指定可能な値は論理定数 #fnot-applicablesolid または outline のいずれかになります。solid を指定した場合は、輪郭の内側を黒く塗りつぶした状態(通常の書体デザイン)になり、outline を指定した場合は輪郭だけを残した状態(白抜き、あるいは袋文字と呼ばれる書体デザイン)になります。

font-proportionate-width: symbol

 書体の字幅をシンボルで指定します。指定可能なシンボル名は font-weight: のバリエーションのように、medium を基準に condensed(狭い・長体)と expanded(広い・平体)とがあり、図4.5のようになっています。


図4.5 font-proportionate-width: と書体デザインの変化

font-name: string

 書体名を文字列で指定します。全ての書体名を許容する場合は論理定数 #f を指定します。font-name:#f 意外の値が指定されると、DSSSL プロセッサは書体選択を行う際にその特質の値しか使用しなくなります(つまり、書体に関する他の特質は考慮されなくなります)。これは、書体名そのものに前述に挙げた特質の要素が含まれるためです。

font-size: length-spec

 文字サイズを length-spec で指定します。初期値は10pt(ポイント)です。

[1]ISO/IEC 10180:1995, Information technology — Processing languages — Standard Page Description Language
(SPDL).

 

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